ノックの音がした～星新一トリビュート～

「お届けものでーす！」

宅配便を受け取り、やっと届いたダンボールのニヤケ顔と同じような笑みを浮かべて僕はダンボールを開封した。

ちょっとした動画視聴や読書用にタブレットを購入したのだ。

iPadみたいな高級品は買えないので、某国の安い安いよくわからないメーカーのものを買った。

なめらかに動画が見れて、ブラウジングができればいいという理由。

YouTubeはなめらかに動く。

キンドルをインストール。問題なく読める。

ポータルサイトにヤフーを登録しようとブラウザを開いてみるが、なぜかヤフーにはつながらず、「新花社通信」というポータルサイトしかアクセスできない。

しかし、ニュースや天気予報といった情報はきちんとのっているし、これでもいいかと妥協した。

2021年9月29日のニュース

「新総裁に岸田氏決まる。10月4日臨時国会召集へ」

「大谷選手10勝へ！ベーブルース以来の快挙」

「北挑戦、ミサイル発射か」

「野菜高騰続く。サンマは今年も不漁」

新花社通信のポータルサイトには今日のニュースが並ぶ。

僕はそのニュースを読みながら気が付いた。

「今日はまだ28日じゃないか」

大谷はまだ9勝だし、総裁選投票は明日のはずだ。

やはり某国の安いタブレット、こんなヘンテコなエラーが出ても驚きはしなかった。

翌日、出社の電車内。

ボーっと社内のモニターを見ていると、岸田新総裁誕生のニュースと大谷10勝目のニュースが流れている。

僕はデジャブな現象に若干パニックになりながら、とりあえず帰宅したらまたあのタブレットで新花社通信のニュースを確認しようと思った。

帰宅するとすぐにタブレットの電源を入れた。

新花社通信のニュースには9月30日の日付と、今日見聞きしたとがないニュースが並んでいる。

これはそういうことなのか？

僕は週末を待ち、それが本当なのかを確認することにした。

10月2日土曜日。新花社通信の日付は10月3日になっている。

競馬欄を確認すると、スプリンターズステークスの結果が出ている。

僕は半信半疑ながらもPATで事前投票をすませ、日曜日を待った。

10月3日日曜日15：45レース終了。

僕は胸の動悸をおさえることができず、声にならない叫び声をあげていた。

大穴を仕留め、口座の残高はいままで見たことがない数字になっている。

新花社通信さえあれば、株も競馬もFXもなにもかも思い通りになる！

そうして1年後。僕は六本木のタワーマンションに住んでいた。

カリスマ投資家などともてはやされ、人生は最高潮に達している。

明日の新花社通信の確認もすませ、投資も完了。

なにも怖いものなどなかった。

明日は銀座でパーティーがある。

世界で4台しかないという高級外車で乗り付けることになっている。

以前は新花社通信を隅から隅まで見ていたが、このところは株の値動きと競馬の結果しか見ていなかった。

まずかった。なんで油断したのだろう。

僕は薄れゆく意識の中でうっすらと後悔をしていた。

【新花社通信】

六本木交差点でトレーラーと高級外車の衝突事故が発生。

高級外車の運転手と、後部座席に乗っていた男性が死亡した。

トレーラーの運転手の脇見運転が原因と思われる。