お面ライダー「ストロングゼロ文学」@ゴクおじ

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快速特急

4両編成の普通列車が到着した。

職場までの約20分の電車通勤。

各駅停車しか止まらないボクの家の最寄り駅から、各駅停車しか止まらない職場までの道のりだ。

普通電車を待つ間、急行電車と快速特急が目の前を猛スピードで通過していった。

途中駅では待ち合わせのため、2本の電車を見送った。

快速特急が止まる駅は、よほど下りまで行かなければターミナル駅であることが多く、東京圏への通勤のベッドタウンになっており、都内まで快速1本30分なんて売り文句で高級マンションが売り出されていたりする。

東京へ通うでもなく、そんな立派な住まいを購入できるわけもないボクは今日も普通電車を待って職場へ向かう。

通りすぎる快速特急を横目に。

 

ボクが就職したのはバブルがはじけ、就職氷河期というものが始まったころだった。

4つ上くらいの先輩たちはまだバブル真っ最中で、就職は引く手あまた。

会社からの資料は分厚い豪華な冊子にVHSのビデオまで付いていた。

ボクらが就職するころはそんな資料はなく、薄い情報誌を片手に足で必死に就職先を探し歩いた。

 

やっと就職した会社は成長産業とは言えず、倒産することはないがゆっくり下り坂と言ったところで、給料やボーナスが派手に出るなんてことはなかった。

 

昭和の成長期真っ只中にいた団塊の世代の親のことを覚えている。

「会社が儲かってしかたなくてさ、特別ボーナスが出たんだ。小遣いをあげよう。」

そんなことが何度もあった。

30になるかならないかで一軒家を買い、車検のたびにクルマを乗り換える。

年に2回は家族を連れて旅行へ出かける。

月に1度は百貨店のレストランへ食事にでかけ、屋上の遊園地で遊ばせてもらった。

普通に仕事をすれば毎年給料が上がり、家もクルマも家族も持てる。

それが当たり前で、ボクたちも大人になったら、好きなものをいっぱい買えるんだと大人になるのが楽しみだった。

 

現実は違った。

 

バブル後の日本経済については詳しく語るまい。

痛みに耐えて改革をすれば日本はまた輝いていた時代を取り戻せる!

そんなキャッチフレーズを言う政治家が首相になり、ボクもそれを信じて今はつらいだけ。がまんすればきっと親世代のように家もクルマも家族も持てる。

そう思い続けてまじめに働いていたが、状況は悪くなるばかりだ。

団塊の世代の親は、お前が努力しなかったからこうなったんだと叱責される。

勝組の企業に就職した友人たちはターミナル駅のマンションに住み、3ナンバーのクルマを乗り回しているそうだ。

 

ふと気が付くと、いつのまにか取り残されたボクは白髪頭になり、定年の二文字がちらつき始める年齢になってしまっていた。

 

6畳一間の小さなアパートに住んで20数年。

今日も仕事が終わり、ひとりで晩酌をしている。

ネット動画を観ながら深く深く酔う。

その時間だけが生を実感できる唯一の瞬間だった。

そして気がけば眠りに落ちている。

 

喉の渇きと酷いダルさで起きる朝。

飲みすぎた朝はいつもこうだ。

つまり、毎朝こうだ。

 

このまま一人で生きて、一人で死んで行くのかな。

孤独死をして、腐乱死体になって発見されるのかな。

 

酒の飲みすぎでたるみ、青白い顔を鏡で見つめながら身支度を進めながら、そんな思いが頭をよぎった。

 

痛みに耐えても政治はなにもしてくれなかった。

まじめに働いても、境遇が悪いのは努力不足と断定された。

努力をしたのであろう。世界を見渡せば、若くして世界の富の何%かを手中に収めた成功者もいる。

国内に目をむけても、若い起業家やユーチューバーといったインフルエンサーたちは派手な生活をしており、自身の成功を売りにさらに富を増やしていった。

 

ボクにはなにもない。

無遅刻無欠勤で働いているだけ。

社会の小さな小さな歯車であるだけ。

そんな男に富はこない。

家もクルマも買えないし、家族なんて贅沢なもの手に入るわけもない。

全ては自己責任なのだ。

 

じゃあ、あの団塊の世代が過ごしてきた時間はなんだったんだろう?

 

派手な成功者はあまり見かけることはなく、ホワイトカラーもブルーカラーもみな、多少の程度の差はあれど、同じ町内で同じように一戸建てを買い、子供を育てていた。

ボクらは同級生がたくさんいる、団塊ジュニア世代だ。

そのボクらが子供を増やせなかったから、今の日本は少子化だとさわいでいる。

これもボクらの責任なのだろうか?

 

イテッ!

 

ヒゲそりでほほを傷つけてしまった。

軽い痛みで真っ黒な思考から現実に戻された。

もう仕事に向かわなければならない。

 

 

各駅停車しか止まらない駅のホームで電車を待つ。

5分後に快速特急が通り過ぎたあと、普通電車がやってくる。

 

ターミナル駅から都内へ向かうサラリーマンがたくさん乗った快速特急

あの電車に乗っているのは、きっと努力をしてたくさんカネを稼いでいる人たちなんだろう。

ボクとは住む世界が違うし、ボクとは次元の違う仕事をして社会に貢献している。

だからボクよりたくさんカネを稼いでいるはずだ。

 

ちょっとだけ、なんか、なんだか、解せないな・・・

 

ボクにできることってなんだろう?

少しだけ、ちょっといい生活している人たちに嫌がらせしてもいいかな?

 

 

普通電車しか止まらないホームに快速特急がやってくる。

 

プワーーーーーーーーーンン!!!!

 

キイイィィィィィ!!!!

 

大きなクラクションと派手なブレーキ音が駅のホームに鳴り響いた。